偶蹄はスグレモノ
牛の蹄は、ヒトの中指と薬指の爪に相当します。蹄の裏側は前半部分が硬く、後半部のカカトは球体状の柔らかな角質で覆われています。偶蹄類は、どんな路面でもうまく歩くことができます。たとえばカモシカなどは岩山や傾斜地帯、また水牛は湿地帯でも大丈夫。とにかく偶蹄は、機能的に単蹄よりもスグレているのです。シマウマ以外のほとんどが絶滅した単蹄類とは異なり、いまでも多くの偶蹄類が野生の世界に生息していることが、それを証明しています。
削蹄の手順
イラストレーションまずアシを接地させたまま、伸びた外周部分を槌と専用のナタで切り落とします。アシを挙げて、専用の鎌で蹄の裏側を削切します。負重はもっぱら蹄の外周部分。そこで、蹄底の中央部はやや凹ませておきます。最後に外周にヤスリを掛けて完成です。なんといっても牛削蹄は「アシ挙げ」が決め手。それがうまくできなければ、削蹄も容易ではありません。
保定枠を使い、作業が楽になったとはいえ、「アシ挙げ」のコツを理解しておくことが大切です。
蹄は第二の心臓
牛の肢蹄は、彼らがまだ野生の世界に生きていたころ、大地を疾走するのに適した構造物として形作られました。そこには走りに適した巧妙な仕組みがいたるところに隠されています。その一つが、蹄のポンプ作用です。心臓から遠く離れた蹄は、どうしても血液の巡りが悪くなりがちです。そこで蹄自体が、歩くたびに負重による伸縮を繰り返して、ポンプの役割を果たし、蹄の血液循環を促進しています。蹄が伸びすぎたり、変形したり、あるいは牛の運動量が少なくなったりすると、第二の心臓ともいうべきこのポンプ作用も低下します。その結果、蹄の健全性が損なわれて、さまざまな蹄病やトラブルが発生しやすくなります。
削蹄は三文の得
運動量が極端に制限されている乳牛や肉牛。そんな牛たちにとっては、少しでも蹄の機能を回復し、それを維持するための人為的な技術を提供することが必要です。それが牛削蹄師なのです。
一文目の得 伸びすぎた蹄を削切することで、本来の蹄形を維持し、安定した立ち方と歩き方に改善し、余分なエネルギーの消耗を抑えます。
二文目の得 負重の偏りを防ぎ、苦痛を取り除き、蹄病の発生を抑えます。
三文目の得 蹄のポンプ作用が回復し、蹄内部の血液循環が活発化して、丈夫な蹄を作ります。
知っていますか
牛たちを脅かすのは、口蹄疫などの伝染病、あるいは乳房炎や繁殖障害などの病気だけではありません。蹄病による生産性の低下や牛の廃用、あるいはその治療費による損失が、実は大きな問題となっています。年間平均30%の牛が運動器疾患を患うといわれていますから、畜産業界全体に及ぼすその損失は計り知れません。
そして、その運動器疾患のほとんどは蹄病であり、それも90%が後肢の蹄に発生しています。
牛の削蹄効果チャート
牛の定期的な削蹄は蹄病の発生予防、牛の健康の向上に大きな影響を与えます。
蹄病になった牛の治療に費用をかけるより、定期的に削蹄を行うことで蹄病を予防、
健康な状態を維持した方がいいという研究結果もあり、注目されています。

参考資料:

ホルスタイン雌牛における育成期の削蹄効果
蹄 第230号

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