馬の'アシ元'のスペシャリスト、装蹄師。

その仕事と職場を紹介します。

装蹄師は、馬の蹄(ひづめ)の管理を専門的に扱う技術者です。しかし、蹄だけをケアしているわけではありません。馬の土台である蹄のバランス調整をすることで、骨や関節、筋肉や腱、あるいは靱帯などの運動器に発生する力学的ストレスをコントロールして、馬のパフォーマンスの向上や肢蹄の病気、外傷などの予防あるいは改善に貢献しているのです。

馬のパフォーマンス向上に貢献する装蹄師

時として、競走馬は時速70kmもの速度で走ります。障害飛越競技用馬は自分の体よりも大きな障害物を飛越します。馬場馬術競技用馬は、研ぎ澄まされた究極の演技で華麗な動きを披露します。総合馬術競技用馬やエンデュランス競技用馬は、たぐいまれな体力を備えて持久力を発揮します。ウェスタン乗用馬は、急停止や高速旋回など、四肢の限界ギリギリの激しい動きを競い合います。
そんなさまざまな馬スポーツでは、地面と馬体の間でやりとりされる力が、見事な演技を作り出しています。たとえば制動力や推進力、あるいは回転運動に必要な求心力。これらの力を効率的に減衰したり、増幅したりすることで馬は見事な動きを演じることができるのです。
また、サラブレッドが全力疾走すると、1個の蹄には、約1.5トンもの荷重がかかります。もし、その大きな力が馬体の構造に対して無理な方向に作用してしまったら...。当然ながら捻挫や脱臼、さらには骨折などの事故につながる可能性が高くなります。
そんな力のやりとりの接点として機能する唯一の構造物が"蹄"です。その形状だけでなく、シューズである蹄鉄のデザインや構造が、それらの力の働き方を微妙にコントロールしています。つまり装蹄はまさに馬の"スポーツシューズ"。装蹄師は、スポーツ装蹄を駆使することで、そんな馬たちのパフォーマンスの向上だけでなく、スポーツ傷害や事故のリスク軽減を通じて、アシ元のメンテナンスに貢献しているのです。

アシ元の理学療法にも貢献する装蹄師

馬の長く細いアシは、実にさまざまなトラブルを起こします。仔馬の時には先天的なアシのトラブルも多くみられ、発育期にはクラブフットや肢曲がりなど、特徴的なアシの疾患にもみまわれます。成馬になっても競走馬や競技馬のアシは、常に大きな力学的ストレスにさらされ、骨折や捻挫、関節炎や屈腱炎などのトラブルや、時には代謝性の疾患である蹄葉炎や蟻洞などを発症するなど、アシに発生するトラブルは実に多種多様です。そのような疾病やトラブルの対応には、薬物療法だけでなく、アシに作用する力学的ストレスの軽減や制御が不可欠です。装蹄師は、アシの解剖学や生理学、運動学や生体力学などの知識を駆使して、目には見えない力をコントロールし、仔馬から成馬まで、その生涯にわたって、アシのトラブル解消や治療に一役買っているのです。

装蹄師の職場-北から南-

日本の馬の多くは、競馬や乗馬で活躍する馬たちです。狭い日本ですが、競馬場は北海道から九州まで、26の競馬場(JRA:10場、公営競馬:16場)があります。また乗馬クラブも、競技馬術を主体とする本格的施設から観光乗馬まで幅広く全国に散在しています。日高や胆振など北海道を中心にサラブレッドを主体とする軽種馬の生産が行われています。つまり、装蹄師の職場は日本全国に広がっているのです。そんな装蹄師の職務は、馬の用途別に大まかに3つに分類されます。

生産地の装蹄師 競走馬の幼駒、育成馬、休養馬、繁殖牝馬の装削蹄
競馬場の装蹄師 臨戦状態にある競走馬や、その予備軍の装削蹄
乗用馬の装蹄師 全国各地の乗用馬および競技馬の装削蹄

これらのいずれか一つを専業に活躍する装蹄師もいますが、これらすべてを対象として幅広く活躍する装蹄師もいます。

装蹄師の就業形態-勤務者から個人開業まで-

勤務装蹄師
JRAやNAR職員、あるいは牧場や乗馬クラブの職員など、組織や会社に勤務して給与を受け取り、装蹄業務に携わる装蹄師です。また、法人化した中小の装蹄会社に所属して、給与を受け取る場合も勤務装蹄師といえるでしょう。給与や勤務形態は、それぞれの会社や組織により異なります。勤務装蹄師の利点の一つは、福利厚生制度や各種保険の恩恵を受けられること、比較的休日も取りやすいことなどです。
開業装蹄師
個人開業の場合、「頭数×装蹄料金」が収入になります。頭数が増えれば、それに比例して収入も増えます。一方、勤務装蹄師とは異なり、ケガや事故などによって仕事ができなくなれば、収入もなくなります。事故などに対する備えは、自身でしなければなりません。一頭あたりの装蹄料金は地域や馬の用途により異なります。一頭あたり、競走馬では1万円から2万円程度、乗用馬は1万円から1万5千円程度です。一日にこなせる頭数は、競走馬と乗用馬でも差があり、同じ競走馬でも個人差がありますが、競走馬の場合、3~4人でチームを組み、一日に数十頭を装蹄する場合もあります。
独り立ちまでの道のり
装蹄師の資格を取れば、すぐに独り立ちできるわけではありません。技術の習得にはそれなりの年数が必要です。開業装蹄師を目指す新人装蹄師は、ベテランの開業装蹄師に弟子入りすることが一般的です。弟子入りの期間はまちまちですが、競馬場やトレセンでは、10年以上の徒弟時代を過ごすことが一般的です。

装蹄師の"やりがい"、それは・・・

G1レースで優勝するような馬や、ワールドカップやオリンピックに出場するような馬など、歴史に残る名馬の装蹄に携わることができれば、それは嬉しいことでしょう。しかし、それだけではありません。
あなたに愛馬がいるなら、想像してみてください。たとえば、アシ元のトラブルで、立つことや歩くことが困難となった馬が、装蹄師の技術によって立てるようになったとしたら...。おそらく、計り知れないほどの喜びでしょう。その喜びを、装蹄師も同じように感じるのです。装蹄師にとっては、装蹄する馬のすべてが愛馬です。確かな技術を身につけ、高度なテクニックを駆使し、愛馬のアシ元を健全に管理すれば、その喜びはひとしおです。もちろん、なかには救うことができないケースにも遭遇します。そんな時は、悔しく辛い思いもしますが、だからこそ、自らの技術でアシのトラブルから救えた時の喜びも大きいのです。

装蹄師にしかできない馬へのケアがあります。
装蹄師にしか味わうことのできない
充実感や醍醐味があります。

あなたも、馬のアシ元のスペシャリスト、
装蹄師を目指してみませんか?